vol.16


 
北の大地は幼い春にその身を包まれている。
 前作『千嘉千涙【senka-senrui】』を録音してから、一年という時間が流れた。そして、僕たちは、新しいアルバムの録音をするために、北海道に降り立った。振り返れば、いろいろと想うことも多いのだが、これからのKemuriにとって何が必要で何が不必要なのかを見つけるためにも、自分を「“?”ニモカカワラズツキウゴカス」ものは何かを探るためにも、リラックスして録音を楽しもうと思うのだ。
 で、早速だが、録音の合間に近くの湖へ釣りに出かけた。釣りのことはほとんどわからないので、ツダノリアキ氏が優しいのをいいことに準備を全部やってもらい、「支笏湖のヌシはオレがもらった」くらいの勢いで竿を振った。いきなりバックラッシュ(釣り糸がこんがらかる、初心者によくあるらしい惨事)してしまい、早くもめげそうになったが、気を取り直して釣りを楽しんだ。雪解け水が流れ込む支笏湖の水温はまだまだ低く、長靴を履いているにも関わらず、一時間も足首まで浸かって竿を振っていると足がシンシンと冷えてくる。
 平谷庄至が、果敢にも裸足で支笏湖に入っていった。彼の「アツイ、ツメタイ」の感覚は少々独特で、凡人の僕には理解しかねるのである。釣るのを一休みして、写 真を撮ったり、ショウジやレコード会社の川原氏とおしゃべりをしたり、笑ったりしながら、時間がゆっくりと過ぎていった。皆の笑う顔を見ながら、何をするわけでもなく、何を考えるわけでもなく、ただ何となく過ぎていく時間も大切なものだと思った。僕の心の中には、たくさんの怒り、喜び、悲しみ、希望、そして絶望が存在している。他の誰の中にも存在するように、ごく普通 に存在しているのである。それらすべてを肯定し、受け入れるためにも、ゆっくりとした時間の流れは、とても大切なのである。
 夕暮れが近づき、飛び回る虫目当てに魚がそこら中でライズし始めた。が、僕の釣り竿は、夜を待つ湖面 のように静かなままだった。とても静かだった。





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