(エンジニアのシュガー・スペクターとは)
ずっと一緒にやってきたという感覚があって、
『Blood-est!』の時に、ようやく
自分たちでもイイっていうものができた

●前作と今作では、録音機材面 なども含めたコンセプトなどは、まったく違うんですか? 今作はシンプルというか、それこそ録り方も昔っぽい一発録りだと聞いてるんですけど。
伸太郎
「今回のセカンドのレコーディングは、前回の『Blood-est!』の延長という感じですね。録る場所も一緒だし、基本的な録り方は変わってないです。ただ前作を踏まえた上で、もうちょっとマイクを置く位 置をこのあたりで、マイクとの距離をこのあたりで、メンバーの配置をもうちょっとこうしたほうがいい、というのを詰めまして。そのセッティングで丸1日設けてって感じですね」
●エンジニアさんも同じ?
伸太郎
「そうですね」
●スタジオは?
伸太郎
「スタジオじゃなくて、ただのホールなんですよ。だから機材とかは全部持ち込みで、エンジニアがシュガー・スペクターって人なんですけど、録音機材もエンジニアさんの持ち物なんですよね」
●アルバムジャケットのレコーディングデータのところが普通 じゃないですよね。レコーダーとかHA(ヘッドアンプ)とかマイクのクレジットが入っていて。
Coh
「でも、ただヴィンテージのものを使ってもダメなんですよね。新しくするってわけじゃないんですけど、実用的にメンテナンスされているものをちゃんと使わないと、良さが全然発揮されなくて。で、そのシュガー・スペクターが、すごい量 を持ってるんです」
伸太郎「機材が何百、何千っていう。で、しかもコレクターじゃなくて、使うからそれだけ持ってるって人。メンバーが、ちょこちょこ入れ替わりしてる頃から、何回か試し録りもしてもらってるんですよね。だから、ずっと一緒にやってきたという感覚があって。で、前回の『Blood-est!』の時に、ようやく自分たちでもイイっていうものができた」
●その方は普段、どんなレコーディングをやってるんですか?
Coh
「10個ぐらい仕事をやっていて、それがどういう仕事かわからないんですよ。いつも忙しい忙しいって」
伸太郎「電話すると、すごく不機嫌なんですよ。“はいはい、じゃあその件はまた後で電話してもらえますか”って、すごく感じ悪い(笑)」
Coh「“5分だけなら”ってよく言うよね(笑)。でも、いろいろやってるみたいですよ」
●謎の人なんですね?
伸太郎
「ベルギー出身の人なんですよ。フランス語と英語がペラペラで」
●帰国子女みたいなことですか?
伸太郎
「小学校まで海外だったみたいですね。この間なんか“ニューヨークに役者の仕事をしに行ってくる”って言ってて(笑)。で、“みんなもニューヨークを肌で感じるべきだよ”とか言いながら帰ってきて(笑)」
Coh「結構バカですよ(笑)」

僕らが出してる音、そこで聴いてる音を
まんま録ってくれっていうのが理想

●でもメンバー的には、あのレコードみたいな空気感が欲しいとかっていうのは、すぐ理解できる人なんですよね?
伸太郎
「そうですね。ずっと一緒にやってたというのもあるし、やっていく中でいろいろ聴かせたりとかっていうのもあるし。何と言っても“実物の音が録りたい”というのが、僕らの理想なんですよね。たとえばホーンだったら、中域のまったくないペラペラの音になっちゃったりとか、せっかくホーンセクションが3本いるのに、それがキーボードでベーッて押したような音になるようなレコーディングにしたくない。僕らが出してる音、そこで聴いてる音をまんま録ってくれっていうのが理想なので。そうするには、差し引きどうすればいいのかっていうのを、エンジニアと演奏するほうの立場からお互い詰めていってという作業に、とことん付き合ってくれる人ですね」
●そのノウハウは、そのエンジニアさんがもともと持ってるものというよりは、作り上げていったもの?
伸太郎
「そうですね。だから、そのエンジニアのシュガー・スペクターは、僕らと一緒にやってるという意識がすごく高い人なんですよね」
●じゃあ、たとえば“あの音はこういう録り方をしたらしいよ”とかって情報は、バンド側から提供したりもするんですか?
伸太郎
「しますよ。そういうところはCohちゃんが。僕なんかは、無責任な言い方をすると“もっとガッツある音で録りたいんだよ”とか“ちょっと空気感が足らない”とか、抽象的なことだけ投げ掛けて。でもCohちゃんは、そういうところも通 訳できる人だから、だったらこうしたほうがいいんじゃない?っていうのをエンジニアと詰めたりとか、演奏する側からの具体的な意見とエンジニアの持ってる知識とを調合して、どんどん膨らませていってという感じですね」

今の普通のやり方で録ると“違うじゃん!”
ってなるんですよ。好みじゃなくて
“実際の音と違う”って

●具体的な録り方ですが、要は重ねない(オーバーダビングをしない)わけですよね。マイクのセッティングは、どんな感じなんですか?
Coh
「各セクションだよね。ドラムが1本、ベースが1本、ギター1本、ホーンで1本。で、今回は歌もあるから、もう1本どうしても必要になってくる。でもヘッドアンプが4チャンネルなんですよね。それを徹夜で5チャンネルに改造してくれて、そしたら(クレジットに)5chカスタムとか書いてるの(笑)」
●僕からしたら、本で読んだことしかなかったような昔のやり方というか。ドクター・ジョンの自伝で、彼が子供だった頃のニューオリンズのR&Bの録り方がワンマイクで、あとは各パートの立ち位 置で調整していて、たとえばヴォーカルからサックスソロに移るところは入れ代わってみたいなことが書いてあって、すごく面 白いなと思ったんですよね。それに近い。
伸太郎
「まさに、それですよね。ソロの時に摺り足で寄っていったりとか、その位 置もちゃんとバミッてあって。マイクの角度、楽器から音が出る角度も意識して、歌う時はスッとこっちのマイクに。でも歌は全然聴こえてないんですけど(笑)。
 でも、別に昔の音を出したいとか、そういうわけじゃないんですよね。レトロなことをやろうとか、昔のコピーをやりたいとかは、まったく思ってない。ただ自分たちの等身大の姿を収めるには…ってことを突き詰めていった結果 、そうなった」
Coh「今の普通のやり方で録ると“違うじゃん!”ってなるんですよ。好みじゃなくて“実際の音と違う”って」
●単に昔のやり方を模倣してるわけじゃなく、目の前で演奏している“まんま”を録る一番いい方法が、それであるというだけなんですね。だから失敗したら全員でやり直すとか、最後はどのテイクがいいか単純に選ぶ、そういうことですよね? 何回ぐらいやるんですか?
伸太郎
「多い時は10回ぐらいですね。もう、そのあたりが限界です。息も詰まるようなレコーディングをしてるわけじゃないですか。気持ちのほうも続かないし、体力的にもバテるので、そこまでになるべく早いテイクで、いいものが録れるように。早いものは3回ぐらいですね」
●普通のレコーディングだったら、たとえば10回やったら、このパートはここだけやり直してってできるけど、ブラサキの場合は、この面 で見るとこっちがいいけど、違う面で見るとあっちがいいから…という選び方しかできない(笑)?
Coh
「必ず誰かが泣くんですよ(笑)」
●じゃあ次は頑張ればってことですよね。健全ですね。
伸太郎
「そうですね」
Coh「今は一発録りって言ってもブースに入って録ったりしてるから、マルチだから直せるんですよね。僕らは一つの部屋だし、フルトラックだから、どうしようもないんですよ」

仮で何テイクか録ってますけど、
わりとスパッと行ってるのが多いですね。
『Hiasobi』なんかは2回ぐらいしかやってない

●10テイクの中から選ぶとなると、どのへんがいいといった傾向はあるんですか?
伸太郎
「だいたい10回やっても、8回目ぐらいで納得したものが録れたっていうだけなんですよね。あと予備で2回ぐらいやったという。だから、8〜10テイク目ぐらいから選びますね。一応は全部聴きますけど、たまたま良かったなっていうのも集めて、その中で削っていく。そこからは、誰が泣くかってことなんですけどね。だからジャンケンしたりとか(笑)」
●たとえば通常のヴォーカル録りの場合、10回歌ったけど結局は最初のほうが良かったってことがよくありますけど、ブラサキの場合、良くなかったからこそもう1回やってるわけで、10回やったのに1回目を取るということは、あまりないってことですね?
伸太郎
「そうですね。ただ意外と、レコーディング終わってメシでも食いに行って、帰って聴いてみると“これいいじゃん”って。気にしてたところが、すごく小さいところだったりするので、そういうことは、わりとありますね。だからメシ食ってる時に、それを期待してたりするんですけど(笑)。
 あとは、その場で全部CD-Rに落としてもらって、家に帰って聴いて目星を付けておいて、すべてが録り終わってから、みんなで集まってテイク選びを正式にして」
●でも日数は、すごく少ないですよね?
伸太郎
「実際3日かけてますね」
●1日目にセッティングというか、マイクの位 置だ何だっていうのをやって、そこから3日間で9曲?
伸太郎
「1日3曲という予定で。でも、初日に4曲録れちゃったから、あとラクだねって言ってたら、とんでもなくって」
●どこかでハマッたわけですね(笑)?
伸太郎
「その翌日にハマりまして(笑)」
●どの曲の、どのあたりですか?
伸太郎
「結構ハマるわけないところでハマッたりするんですけど、『Back Drop Swing』でハマりましたね」
●逆に言うと、ズバッと決まっちゃったのが、ほとんどってことですか?
伸太郎
「そうですね。一応、仮で何テイクか録ってますけど、わりとスパッと行ってるのが多いですね。『Hiasobi』なんかは2回ぐらいしかやってないし、『Spin Around』なんかもパッと録れちゃったし、『L-O-V-E』なんかは5回ぐらいやってますけど、ずっとノリノリで行けてたので」
●全曲とも、すでにライヴでやってました?
伸太郎
「いや、やってない曲もありますよ。『Spin Around』と『Hiasobi』は録った後からやり出した曲で、『L-O-V-E』と『Talk Of The 52nd』と『Corn's A' Poppin'』は一度もやってないですね」
●ライヴでやってない曲が難航するとは限らないんですね?
伸太郎
「そうですね。レコーディングするに当たって、いろいろマイナーチェンジを繰り返してたりとか、ココはこうしよう、ああしようって感じで結構変えてるので、そういうところだったりもします」
●その結果、前作の延長線上というよりは、突き抜けた作品になった?
伸太郎
「そうですね。前作よりもパワーアップできたんじゃないかと思います」

曲を持ってくる段階で、思いついたものは
すべて出そうという方針があって、とにかく
やってみよう、ダメだったらやめればいい、って

●楽曲的にはどうですか? たとえば当初はジャンプということだったんですが、今はジャンプをやってるという感覚は?
伸太郎
「ジャズをやってるという感覚ですね」
●気持ちはジャンプみたいな(笑)?
伸太郎
「そうですね。ホットにクールに、すかしてジャズを演奏してるという」
●やりたいことって、そんなに変わってきてないんですよね?
伸太郎
「そうですね、根本的には変わってないです。拡がりは出てきてますけど、基本的には変わってないですね」
●必ずしもジャズ臭いジャズばっかりでもないですもんね?
伸太郎
「ポップスと言っていいのか何と言っていいのか、わからないですけど」
●たとえば『Hiasobi』のギターのバッキングみたいに、普通 のジャズだったらあり得ないようなフレーズやリフなんかは、誰かがこういうフレーズはどうって持ってくるわけですよね?
伸太郎
「曲を持ってくる段階で、遊び心というかシャレの部分というか、もう思いついたものはすべて出そうという方針があって、出して掘り下げていく。とにかくやってみよう、ダメだったらやめればいいかって。で、持って行くほうも、ものすごく微妙な気持ちで持って行ってるんですけど、その結果 メンバーの何人かが食い付いてきたり。で、コレはコレで行けるんじゃない?って感じでやってくと、わりとそんなアレンジになったりとか。遊び心は常に持ってるので。ただ、聴いてる人を茶化してるわけじゃなくて、真剣にシャレをやってるっていうところですね」
●これはあり得ないだろうけど一応出しておこうかなっていうのが、たまたま良い結果 になるってことが、みんな経験でわかってるんでしょうね。誰かがうまくやってくれるかも、って。そういうのは大いにあるってことですね?
伸太郎
「そうですね」
●だから思いついたものは、どんどん出すように、と。
伸太郎
「わりと自分たちの中でほとんど固まってる状態のものもあれば、ほんとメロディとコードしかなくて、あとどうしたらいい?みたいなものもありますし」
●曲ができたら、譜面は必ず存在するんですか?
伸太郎
「必ずではないですね。個人個人では、人に伝えるために持ってたりはしますけど」
●一応みんな読めるけど、譜面 に起こすのは必要に応じて、と?
伸太郎
「そうですね。簡単な走り書き程度のものから、ばっちり書くときもあるし」